官僚不振、20年目のあの日
私は官僚不振者である。
彼らが優秀であることは否定しない。いや、むしろ優秀なゆえに下々の意見を聞かない体質が問題だと考えている。
どうも優秀な人間というのは、自分以下の人間より優れていると勘違いするようである。彼らは政治学・経済学・数学において優秀であり、政治や経済、ギャンブル、風水、風俗、思想的に優秀という訳ではない。
ここで学と付けたのは意味がある。政治と政治学は異なり、経済と経済学も違うのだ。田中角栄がそうであるように、官僚には政治・経済学が優秀なものが適任だが、政治家にはギャンブラーの方が適任なのだ。政治的勘とでもいう第6感こそ、政治生命にとって必要なことなのだ。
まして、世界の情勢こそ、ギャンブルのようにサイの目をくるくる変えている。勘の悪い者が政治家になっていけないというのは私の持論だ。
官僚不振になったのは、20年ほど前である。
まだバブルの最盛期で昭和の時代である。学生の私は何がしかの討論会で学者と官僚のOBと話したことがある。
「日本の物価が世界一高いことは消費者にとって不利益をもたらしている。」等々の話である。NHKでもよく論議されていた。《規制緩和がこそ必要》が御題目であった。
私は安易な規制緩和には反対派であった。
特に流通における闇市場を規制緩和で一般市場にしてしまおうという動きと、ダンピングの取り締まり緩和により割安感を市場に与える政策は愚作であるとしか言えない。
覚えているだろうか、
「闇米を販売していると自分で自分を告発して裁判を起こした事件」を政府は闇米の取り締まりを強化せず、自主流通米として合法化した事件だ。
自らを裁判に訴えることで、闇米をどうにかしようとした農家の行為は、官僚の姑息な手法で霧消されたのである。
その他に免許や自主流通の緩和によって、問屋と呼ばれる中間卸の力は減少し、スーパーやデパート等の大型販売店の力が強化されることになった。
ここで販売店の取扱い義務を強化していれば、今日のように安全に対する不安はなかったであろう。
ダイエー等の躍進
ダイエーは誰でも知っている大型スーパーである。安さを求め、ジカ買いを始めた張本人である。安全性や質を無視した買い付けで、安く買いあさった企業であり、阪神大震災のおりもガラス入りのお米を販売したスーパーである。(無償でなく)
関西経済界、副会長の地位を利用して規制緩和を推進した立役者の一人である。
安全性も商品の質も無視して、値段だけで交渉する手法であった。生産者は質の向上よりもとにかく安く生産することに注意がなされた。場合によっては違法な薬品を使う場合もあったそうだ。
そうして、安さを求めるダイエーは国内から海外へと視線を広げていった。安いだけなら日本より海外の方が利益がでるという理由だ。
そんな中で100円のベトナムビールがまったく売れずに、在庫を抱えて悩んでいる姿はこっけいであった。
ともかく、規制緩和によって安全や品質の向上を忘れた日本は、「安い安い安い」をキャッチフレーズに走り出した。このあとのバブル崩壊によってモラルハザードが併発し、利益優先主義へと奈落の底へと驀進することになった。
規制緩和を反対したわたし
当時、私は安易な規制緩和を反対していた。
大きな理由は2つであった。
ジカ買い等を許した場合、値段は安くなるが卸・流通・販売店に失業者が大量に発生する。当時数%の失業率がアメリカなみの数十%になる可能性がある。
また、ここ(卸・流通・販売店)で働く人々は専門知識が豊富な方であり、特に食の安全を考えるのに欠かせない人々である。
しかし、これに対する官僚OBと学者の意見はそんなことにはならない。
失業者は新しい職場に吸収される。また、直買いにおいても専門的知識を十分にそろっていると反論された。
私はさらに質問した。
卸や組合といった組織を残した方が国からの管理が容易であり、安全性を確保するには必要なシステムではないか。また、小さな店舗はお客と対面販売を主としており、店の信用や暖簾のほこりを大切にしており、食の安全や専門知識をもっている者を安易に手放すものではない。大店舗を優遇する政策は間違っている。大店舗にも地域の貢献とお客への安全を補償する何らかの規制が必要だと考える。
彼らはこれらの質問には取り合うことはなかった。
NHK等の討論番組でも規制緩和の必要性のみ語られていた。
官僚と学者はバラ色未来を視聴者に与えて、反対意見はほとんどなかった。
この頃からテレビの民意の誘導と、官僚や学者の意見に《?》を付けるようになったのだ。
私が規制緩和反対、問屋制度にこだわったのは江戸時代の本を読んでいた事と、実家が酒屋を営んでいた為に、実態経済の直に触れていたことが原因であった。
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